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2019/03/06コラム⑪:「奥様は魔女」の国

 徳山高専の天内です。

 私が子供の頃、毎週日曜日に「奥様は魔女」というテレビ番組をやっていました。主人公のサマンサが鼻をピクピク動かし、魔法を使って料理をしたり、掃除をしたり、問題を解決したりします。テレビで映るアメリカの一般家庭は、当時の標準的な日本の家庭とは全く異なり、美しく優雅な生活をしているように見えました。当時の子供達は、テレビを通じてしか外人を見ることがなかったので「外人=アメリカ人=美男と美女の国」のようなイメージでした。おそらくそれがアメリカでの生活に強く憧れるきっかけになったと思います。

ジョンズ・ホプキンス大学にて

ピーボディー図書館

 アメリカに対する憧れは大人になっても消えず、大学院生の頃にアメリカ放浪生活を経験し、将来、アメリカに住むことを決意しました。博士号(生物学)を取得し某国立研究機関に数年間勤めた後、ノーベル賞受賞者36名を輩出するアメリカ東海岸の名門医科大学であるジョンズ・ホプキンス大学(メリーランド州ボルチモア)に留学しました。ボルチモアはベーブルースが生まれ育った街で、メジャーリーグ・オリオールズの本拠地です。街並みも美しく19世紀に寄付金により建築された「美しすぎる図書館」として有名なピーボディー図書館があって、その美しさに圧倒されるとともに、アメリカの豊かさを実感しました。一方で、周辺の地域は黒人街となっており、図書館やキャンパス周辺の治安は非常に悪く、キャンパス内でもホールドアップなどが頻繁に起こっていました。ボルチモアは、当時、全米屈指の凶悪犯罪多発都市としても有名な街でした。 その後、新しい刺激を求めテキサス大学サウスウェスタン医科大学(テキサス州ダラス)に移籍しました。サウスウェスタン医科大学は、当時、ライジングスターと呼ばれ、世界各国から超優秀な若手研究者を高額なサラリーで集め、豊富な研究資金を武器として研究実績を伸ばしていました。私の所属した研究センターも、約50億円の寄付金で建てられたそうです。テキサスは、メリーランドとは全く異なる国と言っても良いほどで、メキシコからの不法移民が大勢住んでいます。またベトナム戦争後に移住してきた南ベトナムの移民も多く、他の地域ではみられない、独特の雰囲気を持った州です。360度平野が広がる光景は、山、川、海に囲まれて育った私にはちょっとストレスとなりましたが、研究成果は順調に挙げられ、いくつかの一流の科学誌に論文を乗せることができました。この大学も周りにノーベル賞受賞者がいて、彼らと身近な環境で触れ合う機会を得たことは、私のその後の人生に大きな影響を与えたと思います。

Drosophila Meeting のおけるポスター発表 @ San Diego

 こうして合計9年間、日本に一度も帰国することもなくアメリカでの生活を楽しく過ごし、最終的にはテキサス大学のサポートもあり永住権(グリーンカード)の申請をしました。ところが残念ながら9.11テロの影響でビザの発給手続きが遅くなり、やむなく日本に帰国し、東京の某大学で研究員として働きながらアメリカ永住権の取得を待つこととなりました。その後、アメリカ永住権を取得し渡米しようとしましたが、紆余曲折を経てこの権利を放棄し、日本にとどまり現在に至っています。

 その間に感じたことを次に書いておきたいと思います。在米中、多くの日本人留学生や日本企業の方達とお会いしました。中国人とは異なり、日本に帰ることを前提にして渡米してきていますので、なかなかアメリカ社会に慣れず、体調が不良となる日本人が多かったのを覚えています。アメリカでの生活を開始して、すぐに分かったことは、アメリカ人は生産性が高いと言う事です。朝早くから実験を開始して、夕方6時頃にはほとんどの研究員たちが帰ってテニスや水泳をし、またかなり頻繁にパーティーをしてみんなで楽しんでしました。しかし、何故か実験データはどんどん出てくる。とにかく集中力が高いのです。なんとなくアメリカ人より日本人の方が良く働くと言うイメージでしたが、生産性が全く違っていてびっくりしました。さらに発表や議論のスキルが高く、大学生はとにかく良く勉強をしていました。私もアメリカナイズされ、すっかり議論を好み、即断即決、ローコンテクストの変な日本人になってしまいました。日本人の弱点は「発言できない」「質問できない」「議論できない」とよく言われますが、全くその通りだと思いました。アメリカではMeeting で激しく議論する一方で、決まったことはきちんと守る、これがアメリカンスタイルだなと痛感しました。

 一方、アメリカ社会が全て良いわけでもありません。多くの課題があります。特に、人種的な偏見は明らかに存在します。マイノリティーが高等教育を受け、平均的な所得を得るのはかなり困難な国であると思います。まず子供達が通っている学校が白人とは全く異なります。さらに買い物をするモール(ショッピングセンター)や住んでいる場所も、白人とマイノリティーは区別されています。通う高校や大学も異なります。いわゆるIVYリーグを中心とした私立大学を始めとした高等教育は、非常に学費が高く(現在は、さらに高騰しているようです)、低所得者層のマイノリティーは、天才的で奨学金を取れるほど優秀な若者や、スポーツ等で顕著な才能を持っている場合を除き、IVYリーグのような一流大学に進学するは困難です。アメリカは、思っていたより学歴社会なので、貧困家庭に生まれた子供は、多くの場合、貧困層として一生を過ごさざるを得ません。また、アメリカの田舎には保守的な白人が多く住み、現在でも進化を信じていない人々が多く存在することにも驚きました。彼らの多くは敬虔なキリスト教徒でもあり、毎週末、教会へお祈りを捧げに行きます。さらに食の豊かな国でありながら、たくさんの餓死者が毎年出ます。

 現在、日本の生活にも慣れ(?)、しかしながらアメリカナイズされた心は失わず、はっきり物を言う変な日本人として過ごしています。これまで世界の約30カ国を訪問しましたが、私のアメリカへの愛は変わらず心の中にあります。喜びや悲しみを大袈裟に表現し、「人生は楽しまないと損」、「挑戦と変化する事」に躊躇わず挑んで行くアメリカという国と、そこに住む人々が大好きです。

 次回のコラムは、新居浜高専の福光先生です。

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